★<自転車>が真之(本木雅弘)と季子(石原さとみ)を繋げるいい小道具になっている。
大声で笑う真之なんて実にひさしぶり。これだけで彼のウキウキした気持ちがわかる。
上手い小道具としては<どじょう>もそう。
律(菅野美穂)と季子を結ぶ小道具になっていると共に律の気持ちも描いている。
律にしてみれば「どじょうもさばけないないような人が淳さんの嫁になっているの?」といった思いが多少はあっただろう。
それは律が真之の松山時代の話をする所も同じ。
「あたしの方が淳さんのことを何から何まで知っているのよ。あたしの方がつき合いが長いんだから」というライバル心があったはず。
しかし季子はやはり華族のお嬢様なんですね。そんな律の気持ちには全く気づかない。
むしろ無邪気に「もっと聞かせて下さい」と言う。
こういう三角関係の描き方は見事!
後は小道具としては、子規の<下駄>。
元気に歩きたかった子規の代わりに真之が歩く。
そんなことを象徴している。
★あと見事なのは会話の描き方。
ドラマではふたりが面と向かってただ話しているのはつまらない。何か他のことをしながら話すと面白くなる。
山本権兵衛(石坂浩二)と東郷平八郎(渡哲也)の会話は<釣り>しながら。
児玉源太郎(高橋英樹)は日高壮之丞(中尾彬)は<取っ組み合い>をしながら。
好古(阿部寛)とロシア騎兵達は<腕相撲>をしながら。
これらが机を挟んで会話しているだけだったら単なる説明シーンになってしまう。
特に好古のシーンはいいですね。
敵同士であっても同じ<騎兵>として繋がっている。
この頃の戦争にはこうしたのどかな面があった。
後に描かれるだろうが、旅順要塞攻略戦で死者が大量に出た時は両軍でいったん休戦して遺体を収容し、埋葬する何日かを持ったそうだ。
旅順が陥落した時は日本兵、ロシア兵が互いに健闘をたたえ合ったと言う。
ところが今は核兵器を一発。戦いの後には何も残らない。
★さて歴史の話。
伊藤博文(加藤剛)を始めとする日露戦争の指導者たちが見事なのは、<戦争を終わらすこと>を考えていたこと。
ドラマでは伊藤がルーズベルトの同窓生である金子堅太郎を渡米させ、「アメリカが講和の仲介をするよう働きかけよ」と指示する描写があった。
伊藤は開戦前からいかに戦争を終わらせるかを考えていたのである。
ところが後の日中戦争、太平洋戦争は?
一億玉砕。まったく終わらせることを考えていない。(かろうじて終戦間際にソ連に仲介を頼んだようが)
<諜報>を重要視していたのも日露戦争。
今回登場した明石元二郎。
彼は今でいうスパイ。
そして明石が虐げられたロシアの民衆に内乱を起こさせたから、ニコライは終戦時に圧倒的な兵力を持っていたにもかかわらず、講和に応じざるを得なかった。
<諜報>が戦争で十分に機能した例である。
また、日露戦争の指導者たちが見事なのは<日英同盟>を結んだこともそう。
これによりドイツやフランスはロシアに加担できなくなった。
この様に日露戦争の指導者たちは用意周到でしたたかであった。
ドラマでは開戦までのシーンも描かれたが、開戦を急いだのもシベリア鉄道で大量の兵士が動員されたらとても勝ち目がないから。
★司馬遼太郎さんが「坂の上の雲」で日露戦争を描こうと思ったのも、昭和の戦争との対比を描きたかったからでしょうね。
・開戦時に戦争を終わらせること考えていた政治家。
・<諜報><外交>、あらゆる手段を使って戦おうとした政治家・軍部。
・政治家と軍部が一体となって遂行された日露戦争と政治家の発言力がなくなり軍部が独走した昭和の戦争。
そして、この日露戦争の勝利が国民の冷静な理性を狂わせ、昭和の<神国・日本>という幻想を持たせることになったこと。
朝鮮半島が緊張し、中国・ロシアとの領土問題が課題になっている現在、この作品が描かれることの意味は大きい。
※追記
列車の窓からウォッカを飲みながら、ロシアの騎兵を見る好古。
前回は中国酒で今回はロシアの酒。
好古には酒がよく似合う。
※追記
次回は<軍神・広瀬>ですか。
戦前の教科書で美談として描かれたこのエピソードはどの様に描かれるのだろう。